刀鍛冶の日々

雨花

 早朝から大雨が降ったので、午前中は外気温が低く鍛錬は続く。
 昨日より短刀を鍛えているが、下鍛えの終った異なる分析の鋼を合わせて、上鍛えに入ると鍛接が悪く空気を噛んだ膨れが多く出る。鏨で切って沸かし直し。泥沸かしで丹念に沸かしても膨れは続く。皮鉄鍛え最後になっても膨れ1個が出る。精も根も続かなくて昼で中止。
 明日は心鉄を鍛えて造り込み。手間のかかった刀剣程記憶に残り、上手く研ぎ上がった時は嬉しいものである。刀剣の傷は接合が悪い場合は殆ど無く、非鉄金属介在物を噛んだものが大半である。やはりたたら製鉄法が大事。
 降る雨は梅雨を思わせ、庭の木々や花々は雨に咲き誇る。
           歌三首
   〇うす紅の    咲き誇りたる   四季バラの
      降る雨受けて   心安らぐ

   〇毎日を   我が妹水を   施して
       咲き誇りたる   庭の花ばな

   〇いつの世も   花を愛でたる   心気は
       心豊かに      戦あらむや

暑さは続く

 早朝の涼しい時間に始めたいが隣近所の事も有り、朝6時より鍛錬は始める。
 7時、鍛錬中に突然スプリングハンマーのペタルが落ちる。40年以上も使っていると、鉄板が6ミリ程擦り減って切断されていた。30分程で急いで溶接をして鍛錬続行。
 メーカーでも製造されていない型式で部品も無いので、簡単な修理は自分でしてもう少し使いたい。製鉄方法も変わり、刀造りが増々面白くなっている。鍛錬方法が変わったので鋼の減りも少なく作業は捗るが、暑さの為4時間が限度である。
 週末には米國より見学者が有るが、弟子が居ないので最後に玉鋼を梃に付け、、折り返し鍛錬の用意をして終る。
 昨日午後、自宅から10分程の上山君の所に顔を出す、若い彼は日中も鍛錬をしている。山中の鍛冶場は涼しく楽である。

休日

 休日なれど朝から研ぎ直した短刀を、本多藩記念館に荷作りし返送。
瀬戸内市役所にふる里納税の返納品に、包丁を加える書類を届け出に。市長は刀を造って欲しい旨だが、6ヶ月期限ではとても造れない。私は注文が多いので、1年待ちだが包丁は1日1本を造る事が出来るので、備前長船の知名度を高めるのに役立てばと思う。長船町には刀工は沢山いるので仕事の無い人が受注すれば、現在の長船鍛冶も刀で生活が出来ると思う。
 午後は来客も有り、夕方は下研ぎの出来た太刀を研ぎ師宅に受け取りと、結構忙しい休日でも有るが、鍛錬をしなかったので体も楽である。

玉鋼切断

 来週よりの鍛錬に備えて、玉鋼3個の切断。1個の玉鋼は12キロも有り、火床に中に入らない大きさで、火床には山盛りの炭で、玉鋼を真赤から真白になる迄焼く。
 火箸で玉鋼を取り出すと体中が熱く、ベルトハンマーで叩いては鏨で切る事を1時間も繰り返すと、下着から汗は流れ落ちる。作業は4時間も続き、両腕は振動で痺れ、息も絶え絶えとなる。
 自家製鋼は硬く粘いので割れない。この粘りが折れない刀の原点である。これで5月中に使う鋼の用意は出来る。
 帰宅後に飲むビールの冷たさに、体も心も休まる。

娘の為に

 宗近君の来る前に、午後のオランダからの見学用意を済ます。
 久し振りに宗近君が長女の出生を記念するのに、御守り短刀の地金造り用たたら製鉄をして、40キロの砂鉄で11キロの玉鋼を造る。
 子供は父母が亡くなってから、生前の両親の事を懐かしく思う事が多く、私の場合も同じである。親として子供の為に金品ではなく、形の有る物を形見として残すのは、親の情である。
 刀鍛冶であるが為に、子供に短刀を残す事が出来て宗近君は幸せである。娘が嫁いでも親の造った御守り短刀は又次の時代に受け継がれるのが日本の伝統である。
 民族の魂を打つ刀工としてこれに勝る事はない。これから毎週休日には短刀造りの為に伝習所に通う事になる。
 弟子が卒業して寂しくなった鍛冶場に、久し振りに弟子の声がする。

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